父親の車で、金太郎を大阪まで送ってから早くも半年ばかり。 あれから受験や、高校入学があって、はすっかり、その夕日の髪をした少年のことを忘れていた。 おーい!おーい!〜! 街中でふいに呼び止められた。人混みの向こうで、赤い髪が、周囲よりも頭一つ分高い位置で、ぴょこぴょこと跳ねている。 「……………?」 誰だろうか。 立ち止り、きょとりと首を傾げるに、ぐいぐい人波をかき分けて、赤毛の少年が近付いてくる。 「!ワイやで!ワ〜イ!」 「…きんたろくん?」 ふいに思い当たる。の目がまんまるくなった。だって、そんな。 「当たり!」 笑ってへへんと得意げに胸を張る金太郎はとてもとても、 「背、高っ!」 背が高かった。この間会った時は見下ろすくらいだったのに、なんてことだ、の頭二つ分くらい大きい。 「伸びた〜!」 「気がつかんかったわぁ…、」 それも無理のないことだ。本当に高い。3、40センチ近く伸びたのではなかろうか。成長期の少年の成長力というのは、こうも凄まじいものなのか。まだは、空いた口が塞がらない。おまけに声も、すっかり低くなっている。それなのに口調は陽気な少年のままで、なんだかとても、ちぐはぐだ。 心境的には「へえ!?金太郎くん!?えらいまぁしばらく会わん間におっきなって〜!いや〜!おばちゃん気がつかへんかったわあ〜!」な親戚のおばちゃんだ。 「もう白石より高いねんで!…千歳にはまだ負けとるけどその内すぐ追い抜かしたんねん!へへ、はちっこいなぁ!」 おばちゃんの心境を思わぬ若さで味わう羽目になったを置いて、金太郎はどうやら上機嫌だ。さっきからずっとにこにこしている。に戦慄とともに記憶されている"白石くん"のほかにちらほら知らぬ名前が出てくるが、一向金太郎は気にしない。 大きくなっても中身はそのまんまだ。 なぜだかそれにほっとして、はやっと、笑顔を見せた。 「きんたろくんがでかいねん。」 「そーか?」 吃驚しすぎて引っ込んでしまった、の調子も戻ってきたようだ。背伸びしてもまだ足りないことに、大げさに目を丸くして、は驚いて見せる。 「せやせや。ほんまおっきなったなぁー!お姉さんびっくり!」 「……へへぇ。」 肩をすくめて、金太郎が頭に手をやる。 かわいいなあ。もわらった。やっぱり大きくなっても変わらないようだ。 そこでようやく、は金太郎が自転車を押しているのに気がついた。 まさかぁ。 「…ひょっとしてまたチャリで来たん?」 「ん!」 満面の笑みでうなずかれた。 相変わらずというか、なんというか。 「また方向間違えたん。」 その質問に、いかにも心外だと言うように勢いよく、ちゃうちゃう!と金太郎が首を振る。 「元気やろかと思って!」 お日様のような、輝かんばかりの笑顔だ。 がなにか言う前に、金太郎はまじまじとを頭の先からつま先まで見下ろして、ふむふむ、とわざとらしく首を傾げた。 「それ高校の制服か?」 「ん?そうやで?」 「えっらいかわいいやんなぁー!」 「えっ!」 思わずぎょっとしたに構わず、やっぱり金太郎は自分のペースを乱さない。このあたりでも評判の制服だ。そのリボンをちょっと摘まんで、「リボンついとる!」おもしろそうにしている。 ん?かわいいって、お前。 考えるより先に、の手の甲が空を切った。 「って制服のことかい!」 一瞬でも自分のことかと思った自分が、ちょっとだけ恥ずかしい。 |
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