『結構かっこよかったって。』
 花ちゃんの言葉が、最近の頭から離れない。そうか金太郎はかっこいい。かっこいいのか。
 そこまで考えて、はうむむとうなって頭をひねる。
 かっこいい?
 …のだろうか。

「んー…。」
 首を傾げて唸りながら、は金太郎の周りをぐるぐると回っている。傍から見るとちょっと異様な光景だ。金太郎もめずらしくびっくりして、目を丸くしている。
「なんや?どないしたん。」
 それにうーん、と唸り声で返事をして、歩みを止めるとは腕を組み体ごと斜めに傾げた。解せない。というより、あまり、解したくない。今度は頭の先から爪の先まで、じろじろと遠慮なく、金太郎を眺める。
「え、なんなん、ほんまになんなん!?」
 若干怖がられてもはぜんぜん気にしない。

 初めて会った時の金太郎は、迷子で、背もよりずっと小さくて、元気で遠慮も屈託もなくて、明るくって、面白くて、ちょっと変わっていて、それでもかわいい男の子だった。
 では今はどうかと言うと、背こそずいぶん高くなったが、赤い髪はあっちこっち元気に飛び跳ねて、笑ったときニカッと音がしそうなところとかは変わらない。人懐っこくて、相変わらず突拍子もないし、むしろ一層パワフルになったんじゃないだろうか。ちょっとつりあがったまぁるい目に、いつも笑ってる口端。よく食べるのも声がでかいのも相変わらずで、しかし、確かに、腕やまくりあげた制服の裾から覗く足なんかはたくましく骨ばって、男の子、とはあまりもういいがたくなっているのかもしれない。
 努めて客観的に。
 とは心の中で何回も念じる。ついでになんの脈絡もなく、携帯電話を取り出して、
「はい、ちーずー。」
 思わず反射でピースしてニカッと笑ってしまった金太郎をカメラに収めると、再び唸りだす。
 参考までにと、以前蔵ノ介に送って貰った写メールとも比べてみる。客観的に客観的に…ぶつぶつつぶやくは、金太郎にはちょっとこわい。

 大勢の写った楽しそうな写メ。しかしこうして改めて見ると、あまり参考にならない。なにせ写っている人間、ほぼ格好いいのだ。
 蔵ノ介なんていかにもモテそうだし、謙也なんかは染めたらしい髪色も似合って垢ぬけている。千里も背がたかく、笑っているのでやわらかい印象だが、まじめな顔をすれば目鼻立ちもはっきりとして、格好いいに違いない。光だって、ちょっと悪そうだがかっこいいことに変わりはないし、ユウジも小春も、個性的ではあるが決して悪くない、むしろ良い部類だ。銀に至っては、なんだかありがたいオーラが出ている。
 そしてその真ん中で、ほっぺたをつねられて変顔になってしまっている金太郎。

 うーんと唸っては今度は逆に体を捻る。
 かっこいい、いや、かわいい、いや、そもそもそういうんやないやろ、いや、でも、うーん。

「きんたろくんは、かわいい」

 急に腕組みを解いて、体をまっすぐに直すと言い放ったに、金太郎がきょとんと目を点にした。
 しばらく二人とも黙って、すると今度は、金太郎がうーんと唸りだした。
「かわいい…は、あんまうれしないなぁ…?」
「そ?」
「せや!きんたろくんかっこいいー!とか、ないんかいな!」
 の返事に、金太郎がプクプクと頬を膨らませて怒りだす。
 あ、やっぱりかわいい。
 はくすりと笑って言った。

「かっこいい、ねぇ…?」

「せやせや!」
 それにますます、金太郎が頬を膨らませる。まったく白石ももみぃんなワイのこと子供扱いしよって!
 ムンと胸を張ると、金太郎はビシッとその右手の人差し指でを刺した。目の中で炎が燃えている。やる気である。
 おお、とわけもわからず感心したに、金太郎が、

「いまにめっちゃかっこよぉなったるから見とけや!」

 と、堂々の宣言。
 一体なんの宣言だろうか。目を丸くして聞いていただったが、なんだかだんだんおかしくなってきて、それからにこにこ笑い出した。
「…それ困るなぁ。」
 その返事に、またもや金太郎はきょとんとするしかない。
「?」
「困るなぁ…。」




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