ガッシャアアアアン!とド派手な音を立てて、自転車ごとの家に金太郎が突っ込んだのは、大阪を出てから1時間経つか経たないかのことだった。通常時間の1時間半も驚きだが、それを"めっちゃ急いで"30分も短縮したその体力が恐ろしい。
ー!!!」
 呼んでみるが返事はない。

 泣いてた。
 受話器の向こう側で、声がふるえていた。それはまるで、金太郎自身が泣きだしなくなるような、痛みを伴った。
 インターホンを連打するも返事はなく、勝手知ったる人の家。庭から回り込んで部屋の中をのぞくが誰もいないようだ。
 たいてい金太郎の行動は思いつきで、だからほんとうにたまに、の家へ行っても誰もいないときがある。そんなときはこうして庭へ回ればタビがいて、誰かが帰ってくるまで相手をしてくれるのだけど、思わず座り込んだ犬小屋に、あの人懐こい犬の姿もない。
 誰もいなくなってしまった。
 ガランとして、まるでさみしい風景だ。
 いったい揃ってどこへいったのだろう。
 どうして泣いていたのだろう。
 そもそも蔵ノ介が、もうちょっと説明してから送り出してくれればこんなことにはならなかったのだ。そう気が付いてみるも、おそらくなにか説明しようとされても自分はいてもたってもいられず、聞かずに飛び出しただろうことは想像に難しくない。
 はあ、と溜息をついて、ふと座ったズボンのポケットに、違和感。
「…?」
 手を突っ込む、とかすかに震えている。
「ああ!」
 携帯電話。
 そう言えば持ったまま出てきてしまった。パカリと開くと、『ちゃん』の文字。だ。

「もしもし!!?」

『もしもし、』

 さっきより落ち着いた、の声。
『よかった、やっと繋がった。』
 ほっとしたような、いつもより少し力ない笑い声。どうやら何度か、電話してくれたらしい。『謙也くんが、メールくれて、きんたろくんが、白石くんの携帯持って、こっちくるからって。』 声がまだかすれている。
『ほんまにごめんね、まさか、白石くんから電話かかってくるとは思ってなくて、』
、」
 どうしたのとかどこにいるのとかなにができるとか。
 思わずポーンと、寒空の下、吹っ飛んだ。

「だいじょぶなんか。」

 受話器の向こうで、が少し黙った。
『だいじょぶ、』
 わらってる。ちょっとほっとして、金太郎は芝生に足を伸ばした。噫そう言えば、もう12月。少し寒い。
『ありがとう、きんたろくん。』
 胸のあたりだけあったかだった。


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